やわらかな檻
 そして、出入り口で受け取ってすぐお引取り願っていたはずが、十分ほど経った今も居座り続けている。


「用がないなら出て行ってください」


 何だかんだ言い訳をつけてまた中に入り、なぜか部屋の片隅で布団を一組敷き始めた兄は、「そうだなあ」とのんびりのたまい、ふと僕のいる文机の方に視線を寄せた。

 テーブル代わりの文机に乗っているのは未開封の箱と黒塗りの抹茶茶碗。

 茶碗の中身は、兄が直々に点てた薄茶といったところだろう。

 頂いた直後に礼儀として口をつけようとした時、締まりなくにやにや様子を観察している不審人物(=兄)がいたので止めて、それきり飲んでいなかった。

 敷布団用の白いシーツがふわりと、空中に舞うように広がる。


「せめて弟君がそれを飲んだら。疲れた時にはさ、身体の中から暖かくして寝るのが一番なんだよ」

「僕を何歳だと思ってるんですか」


 子ども扱いが過ぎるが、引き換えにいなくなってくれるのだから背に腹は変えられない。

 きめ細かに泡立つ茶碗を傾け、独特の口当たりと共に苦味が喉に引っ掛かりながら落ちていく。兄にしては珍しく抹茶の粉っぽさが残っている。

 正直言って不味い。眉を顰めつつも一気に飲み干して、唇をつけた部分を指で拭いた。


「……味が違う」

 日常的に慣れ親しんだ味なのに、こんなに後味が悪かっただろうか。

「あー……それは、弟君が甘いものばかり飲んでいるからだろうさ。最近は小夜ちゃんと同じのを飲んでいたんだろう、抹茶ミルク」


 声に反応して兄の方を向くと、既にベッドメイキングが済んでいた。
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