やわらかな檻


 目が覚めた時、瞼が熱く、目の周りは冷えていた。誰かが様子を見に来たのか、換気のためか、外に面する襖が少し開いている。白熱灯の照明は眩しく、暖房はつけられたままのようで暖かい。襖から光が差し込んでこないのを見ると、まだ夜は明けていないようだった。

 寝間着に着替えず寝たので体が硬い。首を回すのも億劫だったが、すぐ近くでガリ、と爪で引っ掻いたような音が耳を打ち、飛び起きて音源を探した。


「危ない!」


 何をしているのか考えるより早く、体が反応した。

 間一髪で滑り込んだ両腕の中に落ちてきた。大きさはしっくりと馴染んだけれど、子ども一人の体重と落下の衝撃でお世辞でも羽根のように軽いとは言えなかった。


「いっ……」


 たくない、と不思議そうに続く声。
 この子はばかだ。
 こんなにばかだとは思わなかった。

 両腕を投げ出して這った姿勢のまま少し身動ぎすると、横に椅子の足が見える。リングを繋げたような折り紙の長い鎖が、向かいの壁から床へ垂れ下がっている。恐らく彼女が椅子に乗って無理に爪先立ちをして手を伸ばして、ようやく届くような壁の高さから。


「慧! ごめんなさい、痛かった?」


 すぐに事態を察したらしく、僕の腕から慌てて退いた彼女は、突っ伏した頭の横にしゃがみ込んで衝撃を受けた腕をぺたぺた触った。「痛かったのね、ごめんなさい」と勝手に決めつけて。


「痛いって、まだ何も言っていないのに……」

「だって泣きそうな顔してる」


 この子はばかだ。
 何でここに戻ってきた。
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