やわらかな檻
「何で、ここに」

「あ、それは、ケーキ持ってきた時に、このままじゃ仲直りできないから作戦を練ろうって言われて、さっきプランBで行くって聞いてそれで――…」


 聞きたいのはそれではなかったけれど、焦って言い訳めいた説明をする様子が思いの外可愛かったから喋らせて、寝そべって顔を横に向けた恰好で観察することにした。

 彼女の体勢は横座りに、僕の腕を臙脂のスカートに包まれた膝に乗せて、上からそっと手で押さえるかたちで落ち着いた。血色の良い頬、急いで纏めたのだろうか、耳の後ろで一つに結った髪が普段より少し雑だ。

 レース付ブラウスと昭和の令嬢のような恰好に、白い飾り玉がついた安そうな赤いケープを羽織っているのがおかしい。

 元気そうだ。椅子から落ちた外傷も、僕が言葉で傷つけた痕もないように思える。

 話は上の空でしか聞いていなかったが、兄が手引きしたのは聞き取れた。それは面白くなかった。


「もういいです」

 物理的に黙らそうとすると、唇を掠めた指先を彼女が両手で掴み取った。

「あのね、ごめんなさい。私、自分のことしか考えてなかった」


 ……小夜がそう思う以上に、僕の方が、自分のことしか考えていなかっただろう。


「でも、クリスマスをプレゼントしたかった。慧が、世の中の楽しそうなこと全部、人ごとみたいにしているのが嫌だった。お話の中の出来事として済ませないでって、慧もクリスマスを楽しんで良いんだよって、伝えたかったの」
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