やわらかな檻
 私室を出て行く前に墨が乾いた短冊を纏め、紐で結って文机の端に置いていたはずだ。

 わざわざ訊かなくともそうであろうことは推測出来る。案の定、慧はあっさり頷くと深く溜息をついた。


「文机に書き散らかしてあるものは大体。よくここまで類語を集めましたね」

「前々から辞書で調べて、マーカーでチェックしていたの。年に一度だから熱も入るわ」
「その熱を別の所に使っては?」


 この上なく女装が似合うのに、本人は少しも乙女心を理解しようとしない。


「茶道に使うのは嫌。慧に使うのはもっと嫌。他人の為のお願いなんて論外」


 白、水色、濃い赤。

 足元の短冊を一枚一枚拾い上げながら言い、次第に文机の前……慧へと近付いていく。
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