やわらかな檻
 機織が得意な織姫にあやかっているのだから、芸事の上達を願えとやんわり皆へ伝えた先生もいる。

 そんなの真っ平だった。

 どれだけ書いても笹に飾れる短冊は一枚、願い事は一つ。

 本当の願い事を書かないで何になる。

 最後の一枚を拾って手の平の中で纏めていると、意外にも慧は簡単に頷いた。

 と言っても眉間に皺が寄り、視線を逸らし、剣呑に目が眇められ。

 かなり渋々といった風ではあったが。


「……まあ、宜しいでしょう」
「? 珍しいわね」

「良くも悪くも年に一度ですから。そのくらいの戯言は許して差し上げようかと思った次第ですよ」

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