嘘と愛

 ブオーン。

 船の汽笛が聞こえてきた。

「私の犯罪は完全犯罪だった。…でも、もう終わっている事件なのに。ずっと追っていた警察官がいたの。その警察官の話をしたら、当時付き合っていた彼が「俺が何とかする」って言ってくれて。しばらくしたら、射殺されて驚いたわ。あの美奈って助産師も、今更あの事件の真相を話すって言いだしたの。偽証をばらされたくなければ、大金よこせって、私は脅されていたからね。でもね、その事を付き合っていた彼氏に喋ったら「俺がなんとかする」って言いだして…。しばらくしたら、殺されて驚いたわ。…男は惚れた女のためなら、人殺しまでするのだってみせつけられた感じね」

「…それは、きっと姉さんへの愛だったんだと思うわ」
「愛? 」

「どんな形でも、姉さんの事を愛していたから。殺人と言う罪を犯してでも、姉さんの事を護りたかったんだと思うわ」

「愛ねぇ…。そんな事、考えもしなかったなぁ…。お金が全てって思っていたから」

 痛い笑みを浮かべたディアナ。

 赤ちゃんの血液型が桜と同じ事で、遺体は桜だと断定された。
 誰が何故こんなことをしたのか、いくら捜索しても目撃者も手がかりも見つからないままだった。



 ディアナは全て完全犯罪を成し遂げたと、不敵に笑っていた。

 そして助産師の美奈に大金を支払い、イリュージュが連れ去ったのを見たと証言させた。


 それは、イリュージュが万が一でも母親だと名乗り出ないようにするためだった。


「姉さん。ずっと気になっていたのだけど、お父さんとお母さん。本当に病死なのよね? 」
「そうよ、私はそこまで鬼じゃないわ。2人とも、働きすぎだったのよ」


「そう、安心したわ」

 ディアナは一息ついた。


「さて、そろそろ行くわ。あの船に乗るの」

 港にとまっている大きなフェリーを指さして、ディアナが言った。

「飛行機じゃなくて、船なのね? 」
「ええ、空港は警察の目が光っているもの。クルージングして、誰も知らない国で暮らすつもり。もう二度と、あんたの前に現れないし邪魔する気もないわ」


 ディアナはそっと、楓に右手を差し出した。

「元気でね。今まで我慢した分、幸せになるのよ」

 楓はそっとディアナの右手をとった。

「姉さんも、幸せになってね」

 そっと微笑み合う2人。


 そのままディアナはスーツケースをもって、港に泊まっているフェリーへと歩いて行った。

 遠ざかるディアナを、楓はそっと見送った。




 その後。
 フェリーは出航して行った。
 ディアナは偽造パスポートで、田中菊代となり行ってしまった。


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