エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
とはいっても、矢城は恋愛事に鈍感そうなので、たとえ詩織の笑みがぎこちないものだとしても、気づかないだろう。

詩織は「さて」と言って立ち上がり、台所で片付けに入った。
ミートソースは密閉保存容器に移して、フライパンを洗おうとしている。
矢城に食べてもらえなかったのは寂しいが、恋人でもないのに、そんな厚かましい感情を口にはできない。

けれども椅子が軋む音がして、後ろに気配を感じたと思ったら、矢城の手が詩織の肩にかかった。
もう一方の人差し指でフライパンの中のミートソースをすくい、口にする。

「うまい! レストランのものより優しい味がする。料理にも性格が出るんだな。そのままにしといて。夕食に食いたい」

「は、はい。エビと卵とアボガドのサラダも冷蔵庫にあります」

「ありがとう。詩織ちゃんを奥さんにできる男は幸せだな……おっと。不用意な発言には気をつけないと」

夕食に食べると言ってくれたのは、矢城の気遣いだろう。
鈍感というわけでもないのだろうか。
自分で言うように、詩織の恋心を不用意な発言でつついて焦っているようだが。

詩織は胸の奥がぎゅっと締めつけられるような痛みを覚えた。

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