エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
後ろめたさに笑みが引きつったが、矢城はなにも気づくことなく「暑い」とジャケットを脱いでいる。

「お疲れさまでした。アイスコーヒー淹れますね」
「サンキュ。赤沼はまだ戻ってないのか……。留守の間、変わったことはなかった?」
「無料相談のご予約が一件と――」

矢城に返答しながら、詩織は寂しく思う。
赤沼の不在を気にしたということは、自分とふたりきりの状況が嫌なのだろうと勘繰ってしまったからだ。

(矢城先生の友達に勝手に会いにいったら嫌われるかも。大人しくしていた方がいいのかな。でも……)

悩む詩織の手の中で、メモ用紙がカサリと音を立てた。


梅雨明けも蒸し暑さから解放されることはなく、汗ばんだシャツが体に張りつくのが不快である。
時刻は二十二時だというのに、アスファルトも熱気を失っていない。

矢城浩介は、ワイシャツにグレーのスラックスという仕事着のまま、繁華街を歩いていた。
この辺りに若者が好むお洒落さはない。

狭い道に間口の狭い飲食店がひしめくように商いをしている。
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