エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
持久戦に持ち込めば、初老の山田はきっと追えなくなる。
そう思って走っていた。
けれども――。

三百メートルほど必死に駆けても、山田は諦めずに追ってくる。
詩織の息は上がり、速度が急に落ちた。

「止まれ! 止まらないと刺すぞ!」

怒声がすぐ後ろに聞こえて、詩織の頭に死がよぎる。

(もう駄目……矢城先生、ごめんなさい……)

二度と矢城に会えないと思ったら、こらえていた涙が視界を滲ませた。
すると、その時、前方に眩しい光を見た。

それは瞬く間に近づいて、詩織は足を止めた。
農道に似合わないスポーツカータイプの車が、目の前で急ブレーキを踏む。
運転席から飛び出した誰かに、名を呼ばれた。

「詩織ちゃん!」

荒い呼吸の中で、詩織は目を見開いた。
夢を見ているのだろうかと、自分の頭を疑う。
駆け寄ってきたのは矢城で、その広い胸と強い腕で抱きしめられたからだ。

「矢城先生……」
(どうしてここに……?)

「俺は間に合ったんだよな?」
「は、はい」
「よかった……」

心の底からの安堵の息が詩織の耳にかかった。

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