エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
言いにくいが、もう少ししたらここを発って、温泉宿へ向かう時間だ。
蔵王の雄大な景色を楽しめる雰囲気のいい旅館を、矢城が予約してくれていた。

「もう時間かい。あっという間だったねぇ」と残念そうな母に謝って、詩織は台所を出た。
座敷へと廊下を進むと、矢城と出くわした。
お手洗いかと聞いた詩織に、矢城が小声で言う。

「いや、詩織ちゃんを探して。そろそろ出発すること、お父さんとお母さんに話した方がいいだろ」

母には今、話したことを教えてから、詩織は急に頬を染めた。
先ほど思ったことを実践してみようと思ったからだ。

(浩介さんと、呼んでみたい……)

さりげなく……は難しい。
鼓動が高鳴り、目を泳がせて、結局は呼べずじまい。
そんな詩織を見た矢城が勘違いをした。

「どうした? 酒を飲んでいないのに顔が赤い。ひょっとして温泉旅館での一夜に期待を膨らませているの? 詩織ちゃんの浴衣姿に混浴。俺も楽しみだ」
「混浴!?」
「露天風呂付きの部屋を予約したんだよ。一緒に入ろうな」

からかうように詩織の腰を引き寄せた矢城。
酔っているのだろうかとその顔を見上げたが、さほどの変化はない。
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