エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
この商店街を抜けて五、六分歩けば、電車の駅がある。
この時間はまだ、通勤と思われる人波が途切れていない。

詩織は黒縁の伊達眼鏡とマスクをつけ、膝下丈の紺色タイトスカートにベージュのジャケットという地味な服装である。
花粉のピークは過ぎたがマスク姿の人もちらほら見られ、違和感はない。
チューリップハットも被るつもりだったが、顔を隠しているようで余計に目立つと矢城に注意されたため、置いてきた。

季節は春。街路樹のひょろりとした桜は八分咲きで、道行く人の目を集めていた。
詩織には誰の視線も止まらない。
それでも不安は付きまとう。

(市役所に急ごう。用事を済ませて、早く法律事務所に帰りたい……)

それから一時間ほどして、詩織は頼まれた戸籍謄本などを入手し、無事に商店街まで戻ってきた。
ここまで来れば、心はいくらか軽くなる。

市役所では身分証明書を提示した際に、窓口の担当者にじっと顔を見られたが、なにも言われなかった。
移動中の電車でも、お騒がせ女優だと気づかれることなく、うまく通勤客に溶け込むことができたように思う。

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