エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
詩織は眉尻を下げて、首を横に振った。

(マスコミや街の人の視線は怖いけど、九歳の美緒ちゃんが強く生きているのに、大人の私が情けないままなのは嫌……)

詩織の手を握る彼の手に力が加わった。

「それでも外に出るというなら、解決しておいた方がいい。前にも言ったが、訴えてみないか? 詩織ちゃんの名誉を回復するための民事裁判だ」

矢城に拾われた日の夜、不倫騒動を知らなかった彼に、詩織は全てを話した。
世話になれば迷惑をかけるかもしれず、黙ったままでいるわけにいかなかったのだ。

その時の矢城にも同じことを言われた。
芸能事務所の所属女優としての地位の確認を求める裁判を起こし、名誉を回復しようと。
つまり、力を貸すから闘おうと促されたのだ。

詩織は即答で断った。
傷だらけで血が乾いてもいない心では、逃げるのが精一杯。
闘えば傷口をさらにえぐられることになりそうで怖かった。

『参ったな。俺は依頼がないと動けない』

あの時の矢城はそう言って諦めてくれたが、今なら詩織に闘う力があると思ったのだろうか。それはないのに。

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