エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
親身になってくれる矢城には感謝していても、詩織はやはり首を横に振った。

「臆病ですみません。事を荒立てたくないんです。裁判なんて……私にはできません。私にできることは、世間が早く私を忘れてくれることを願うだけです。ごめんなさい……」

矢城の唇からため息が漏れた。
「わかった」と残念そうに頷いてから、詩織の目の奥を覗き込むように見てくる。

「ひとつだけ確認させてくれ。君は闘うのが怖いだけで、名誉回復を望んでいないわけではないんだよな?」
「それは……」

詩織は既婚者だと知らずに小関と交際していた。
騙されていたのだと世間に理解してもらえたら、どんなにいいだろうと思ったことは一度ではない。

けれども、それを主張したところで信じてもらえなかったり、権力をもって真実を捻じ曲げられたりするのではないかと恐れている。

事実、所属事務所のマネージャーに全てを話したのに、詩織ひとりを悪者にして切り捨て、終わりにされてしまったからだ。

(誰も守ってくれなかったもの……)

あの時の崖から突き落とされたような絶望感を思い出し、詩織の目に涙が滲む。

「あの件については、もういいんです……」
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