エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
「あと三十分くらいかかります。遅くてすみません……」

きっと矢城の求める作業スピードではないのだろうと思い、詩織は申し訳なくなる。
マウスで画面を上下にスライドさせて見せたら、その手に矢城の大きな手がかぶさった。
「どれどれ」と言いながら、詩織の手ごとマウスを操る。

さらに、矢城の顔が詩織の頬に触れそうな至近距離に据え置かれているため、詩織の鼓動がたちまち高鳴った。
彼の落ち着いた呼吸が聞こえてきて、どうしても緊張してしまう。

(この距離感は、おかしいよね。どうして? 先生に下心はないと思うけど……)

矢城はきっとパーソナルスペースが狭いタイプなのだろうと思うことにする。
赤沼に対して、こんなに接近している様子を見たことがないけれど。

無精ひげを生やしていても、洗いざらした髪が跳ねていても、矢城は魅力的だ。
温かい人柄に加え、当分恋愛はしたくないと思っている詩織の胸を否応なしに高まらせるほど、時として男の色気を醸す。
それはまるで、放出量が自由自在な媚薬のように。

はたして矢城は、そのことを自覚しているのだろうかと詩織は顔を耳まで火照らせながら考える。

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