エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
(矢城先生の場合、こういうのはわざとじゃないと思う。今はただ、書類の進み具合を確認しているだけだから……)

包まれている右手も、触れそうで触れない距離にある頬もどんどん熱を帯びていく。
これ以上は心臓がもたないと思ったら、ようやく矢城が離れてくれた。

詩織の横に立った彼が、満足げに頷く。

「間違いはないようだ。正確で手際もよくなってきた。短期間でこれだけできるようになるとは驚いているよ。詩織ちゃんは努力家だな。とても助かってる」

矢城は詩織の頭を撫でて仕事ぶりを褒めると、次の作業を指示してから相談室を出ていった。
詩織の口の端が上がる。

(嬉しい。こんな私でも少しは力になっているみたい。もっともっと頑張りたい……)

思うようにならない状況に苦しさを覚える時、矢城はさりげなく詩織の欲しい言葉をくれる。
拾われた日もそうだ。
一躍時の人となってしまった元女優に『君が誰なのかわからない』と言ってくれて、詩織は涙が出るほどホッとしたのを生涯忘れることはないだろう。

ほんのわずかに芽生えた自信。
それを与えてくれた矢城の優しさに慰められた詩織であった。


その夜。
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