都合のいい女になるはずが溺愛されてます
ルンルンで脱衣所に戻って佐久間の家のドライヤーを借りて髪を乾かす。
鼻歌を歌っていたら洗面台の鏡に佐久間が映った。


「な、なんですか?」


あわててドライヤーの電源を切って振り返る。
佐久間は手元のスマホに視線を注ぎながら喋りだした。


「今の時期でもカニ食べられる旅館あったけど貸切風呂がなかった」

「貸切風呂がいいんですか?」

「せっかくならふたりっきりがよくね?」


ただ温泉に行きたいんじゃなくて、ふたりきりがいいんだ。
我慢しきれず思いっきりにやけてしまった。
その瞬間顔を上げた佐久間。
……やばい、バカにされる。


「誘ってよかった。俺もふたりきりで温泉は初めてだから楽しみ」


構えていたのに佐久間も嬉しそうに笑うから気が抜けた。


「え、初めて?」

「うん、今まで行ったことない。四六時中一緒にいなきゃいけないのがダルかったけど、仁奈となら大丈夫そう」


何を根拠に大丈夫なの?
でも理由がないのにこんなに嬉しいの初めてだ。


「初めて同士はしゃぎ過ぎないようにしよう」

「そうですね」

「あとさ、全額払うから俺のやりたいこと叶えさせて」


純粋に喜んでいたのに、不意に含みを持たせて笑うから目を疑った。


「嫌です、絶対ろくな事ない!お金払うから普通に楽しみたいです」

「別に無茶はさせねーって。あー、楽しみ」

「ちょっと、人の話聞いてます!?絶対嫌ですからね」


楽しみと言いながら今度は佐久間が鼻歌を歌いだした。
全然聞いてないなこいつ。
やれやれと思いながら元の位置に戻る。すると鏡の中には嬉しそうな自分の顔が映っていた。
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