都合のいい女になるはずが溺愛されてます
「仁奈、俺のこと陸って呼んでいいよ」


スーパーに向かう道中、並んで歩く佐久間に話を切り出された。
一体全体、あの歓迎会があった夜からどうしたんだろう。
名前を呼ばせてどうしたいの?


「あと敬語じゃなくてもいいから」

「でも職場は敬語に戻すってややこしいからこのままがいいです」

「そっか」


提案を拒否すると佐久間はふいっと目を逸らした。
会話が途絶えて、私から視線を送っても目を合わせてくれない。

しまった、変な意地なんて張らなきゃよかった。
でも名前のない関係なのに、これ以上親密になるのは違う気がする。


「佐久間さん、私に期待してくれてるみたいですけど、ご飯がおいしくなかったらどうするんですか?」


しかしこの空気に耐えきれなくて私から話しかけた。
佐久間はチラッとこっちを見てまた前を向いた。


「職場にお弁当持ってきてるのがおいしそうに見えて」


いったい、いつ私のお弁当をみたんだろう。
他人にお弁当を覗かれるなんてこの上なく恥ずかしいんだけど。
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