都合のいい女になるはずが溺愛されてます
5分が過ぎた頃には佐久間の腕の力がゆるくなってきた。
抜け出して起き上がり、その綺麗な寝顔の前で指を構えた。
そして思いっきり佐久間のおでこをビシッと弾はじいた。


「いって!痛い……え?マジで叩いた?」


たまらず目を開けた佐久間はおでこを両手で押さえる。
何その仕草、乙女か。


「デコピンしました」

「マジで強烈だった。あー……目ぇ覚めた〜」

「お姉さんのビンタとどっちが痛いですか?」

「ビンタはもちろん痛いけど、こっちは一点に痛みが集中して痛い」


片手でおでこを押さえたまま上体を起こした佐久間。


「仁奈、マジで容赦ねーな」

「デコピンには定評があります」

「ドヤ顔で言うな」


佐久間は片方の口の端を上げてツッコミを入れ、洗面所に向かった。
その後、各々準備をしてから朝食を摂ることにしたので佐久間が利用した後の洗面所を借りてメイクをしていた。


「……あれ?」


髪を巻くコテを家に忘れてきちゃった。
どうしようかなと思っていたら佐久間が鏡越しにひょこっと顔をのぞかせてきたのが見えた。


「仁奈、これ使う?」


佐久間の手元にあったのはピンク色のヘアアイロン。

……それは、いったい誰の?
もしかして過去の女の置き土産?そんなの正直使いたくない。


「好きに使っていいよ。置いとく」

「ありがとうございます……」

「言っとくけど姉ちゃんが置いてったやつな、他の女のじゃないから」

「別に何も言ってませんけど」

「仁奈がモヤッとするかなと思って」


説明を求めたわけじゃないけど、コテを見て固まる私を見て笑いかけてきた。
その発言は嘘じゃない、と信じたい。
だって嘘だったら到底デコピンじゃ済まないから。

じとっ、佐久間がいる方をにらむと「なんか寒気した」と声が聞こえてきた。
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