都合のいい女になるはずが溺愛されてます
「仁奈、準備できた?」

「後ろのボタンがかけられなくて」

「借してみ」


家を出る予定時間の5分前。洗面所に顔を出した佐久間に困った顔で訴えたら後ろに回ってくれた。

髪を片手でまとめて前の方に流すと佐久間は器用にボタンをかけてくれた。


「ありがとうございます」

「もうちょい待って」


髪を戻そうとしたら止められたので手をゆるめるのをやめる。

すると洗面所の鏡越しに佐久間が腰を曲げるのが見えて、その瞬間首筋に柔らかい感覚が。
不意打ちで首筋にキスをしてきた。


「っ……」

「今日の仁奈かわいいね」


手を離して振り返る。文句を言いたかったのにかわされて、やっぱり女の扱いがうまいと思った。
でもなんか、悔しい。


「……」

「メイクしてその顔すんのはずるいわ」


悔しくて睨んでいたのに、佐久間は刺激を受けたのか顔を近づけてくる。
え、今度は口にキス?


「リップべたつくから嫌です!」


佐久間の口を片手で塞いだら、手首を掴まれてムスッとされた。


「仁奈はすっぴんがいい。メイクしてると慣れないからやだ」

「慣れてください」

「その格好で1回ヤれば落ち着くかも」

「そんな時間ないですよ、行きましょ」

「はーい」


間延びした返事をする佐久間は不服そう。
その割に振り返った時に見た顔は満足げだった。
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