エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「いや?」
「そんなわけありません」

 それだけは頭を振って、はっきりと答えた。産みたいと思っているし、それを反対されなくて心底ほっとした。

 この状況であっさりと受け入れてくれる人なんて、そうそういないだろう。ましてや、結婚しようとすぐに結論を出してくれたのは、私を不安にさせないために違いない。

「うれしい、です」

 うれしい。それは本当だ。だけど、申し訳ないのも本当で。

「よかった」

 優しく微笑んでくれるほどに、胸が痛くなる。喜びと同時に存在する、苦い感情。恋だけではない、責任感がそこに生まれるのは、こうなったからには仕方がないことだ。

「……ぎゅって、してもらっていいですか」

 彼に向かって、軽く両手を広げて強請ってみる。すると、彼はすぐに嬉しそうに破顔して、私を強く抱きしめてくれた。
 その温もりに目を閉じて、「ああ」と実感する。

 ――好きなんだ。

 私はすでに、彼のことが好きなんだ。
 だからこそ、もっと純粋に喜べたらよかったけれど。

「必ず幸せにする。だから心配しなくていい」

 庇護し、甘やかす彼の言葉に私は苦笑する。どこまでも私を優先しそうな彼にこそ、幸せになってほしい。

「一緒に、幸せになってください」

 まだ、始まったばかりの私たちだけれど、あなたが私にくれた分、それ以上に私もあなたを幸せにしたい。そう思えた。
 
 
< 102 / 185 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop