エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「早めに受診しよう。うちの産婦人科で信頼できる女医がいるから」
「えっ、別の病院がいいですっ」

 つまり、彼のいる病院の産婦人科で、と彼は言っている。そう気が付いて、咄嗟に大きな声で拒否をしてしまった。

 だって、そこには伊東先生がいる。

 彼の顔を見るのも嫌だったし、早すぎる妊娠を知られるのも嫌だ。それに、彼は私の最後の生理がいつかなんて知らないから、場合によっては自分の子かと思う可能性もある。

「……大丈夫だ。伊東先生には知られないようにするし、診察時間帯を予め決めてロビーで待たずに済むようにする」
「でも」
「俺も診察に付き添う。だからうちの病院に来てもらう方が助かる。診察が終わったら、後の会計は俺がやるからタクシーですぐに帰ればいい」
「えっ、大哉さんも?」

 まさか、一緒に来てくれるつもりだとは思っていなかった。私は驚いたけれど、彼はさも当然といった顔だった。

「初めてのことで体調も不安があるし、絶対に行く。別の病院で受けるなら、俺も時間合わせて抜けられるようにするが……」
「ま、まってまって! そんなのはさせられないですってば」
「じゃあ、俺が手配しといていい? うちでなら、少しの時間抜け出すのはそうむずかしくない。伊東先生の耳にも入らないようにしておく」

 別の病院で診てもらうよりは、その方が大哉さんの負担にはならない。ならば、そうするのが一番だろう。

「わかりました……ありがとうございます」

 本音から当然のように出た言葉だったけど、なぜか大哉さんは眉根を寄せて渋い顔をした。

「さっきから、時々ひどく申し訳なさそうな顔をする」

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