エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「そうですね、ちょっと、色々……心当たりがあります」

 思えば、伊東先生が冷たくなった頃から、考えないようにはしていたけれどずっと不安は抱えていた。そこにあの別れの衝撃があって、それから食事がまったく喉を通らなくなった。
 今は持ち直してきているけれど、それでもすっかり元通りとはいえない。ストレスもあったし、どうして妊娠に違いないなんて思い込んだのだろう。

「すみません、狂うことなんてめったになかったから、もうてっきり……」
「勘違いするのはよくあることよ、あなただけじゃないわ」

 明るく笑い飛ばしてくれるけれど、私は顔から火が出るくらいに恥ずかしい。

「生理は、少し様子をみましょうか。ずっと戻らないようなら明らかに異常だからね、もう一度診察に来るように。高野先生も気にかけてあげて。生理が来ない方が楽だからって、軽くみる子もいるからね」

「わかりました」

 すっかり旦那様認定で、大哉さんが竹本先生に言われていた。彼はどこか、それすらもうれしそうだ。

「ま、あまり落ち込まないように。若いんだからまだまだこれからだし」

 そうなのだ。妊娠かもと最初に思った時はあんなに不安だったのに、今の私は間違いだったと聞いて、ひどくがっかりしていた。それが自分でも不思議なのだが、戸惑いながらも数日、大哉さんとあれこれ相談して先に進もうとしているうちに、私は母親としての心の準備も始めていたようだ。

 男か女か、つわりはいつ頃来るだろうか、予定日は。そんなことばかり考えて、いつのまにかすっかり母親気分だった。

< 111 / 185 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop