エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
初夏で日が長くなってきており、外はまだ明るさを少し残していた。それでも、あと三十分もすればすっかり夜になるだろう。
「じゃあ気を付けて」
「はい。お仕事後少し、頑張ってください」
正面玄関から外に出て、エントランスの隅で彼に背を向けて歩き始める。すると、私の正面からこちらへ向かって歩いてくる女性がいた。
どこかで見た気がする。……誰だったかな?
数秒考えていたがすぐには思い出せなかった。彼女は私の後ろにまだいるはずの大哉さんに気が付き、微笑む。
「高野先生、お疲れ様です」
「ああ」
どうやら、ここの職員らしい。大哉さんの素っ気ない返事が聞こえて、私は一度振り返ると彼はまだそこに立っていて、ずっと私を見送っていた。少し、気遣うような表情に見えたのは気のせいだろうか。
私は小さく手を振って、再び前を向いた。
夕食は、焼き魚とお味噌汁、焼き野菜の煮びたしと和食のメニューで揃えた。思っていたより早い時間に彼が帰宅して、ちょうど作り終えたところだったので一緒に食事を済ませる。
その間、なんとなく今日の診察の話はお互いに避けていた。その話を切り出したのは、食後のことだ。
彼がソファに座り、私が近づくと手を取って膝の上に誘導する。しかも横座りで、両足をソファの上に上げさせられた。
上半身を抱きしめられて、私も観念して彼の胸に身体を預ける。
「ちょっと残念だったけど、別に急ぐことでもない」
「それはそうなんだけど、なんかこう、ここ数日の決意が……」
「予行練習になったと思えばいい」
彼はそう言ってクスクス笑うが、私はなんだかどっと力が抜けたような感覚だ。しかし、彼の言う通り、一度心の準備ができたのだから次の時に――。
いや、次って。本当は結婚するまではできたらダメなんだってば。あ、でも……。
「そうだ、結婚……」
考えてみれば、もう急いでする必要はないのだ。だけど、両親にはもう結婚の挨拶という名目で約束を取り付けてしまっている。