エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
名刺を渡したその日の夜、メッセージアプリの知り合いの中に永井さんのIDが加わった。後藤さんに繋ぐよりもまずはと、俺の連絡先を自分のアプリに登録したのだろう。
それさえできれば、後はひたすら真摯に永井さんを説得するだけだ。
互いに仕事があるし、外で会うには俺は時間が惜しい。それから数日かけてメッセージのやりとりと電話で、あの夜のことはぼやかしつつ、後藤さんへの気持ちが真剣なものであると訴えた。
接触を避けながらの、数年掛けた片思いなのだと知ると、永井さんには若干引かれたが、今は後藤さんを捕まえられればそれでいい。
「早くしなければ、伊東先生が惜しくなってまた彼女に手を伸ばそうとするかもしれない」
これが決定打となって、俺は再び彼女に会いに行く権利を得た。
心は後からでもいい。急くよりはゆっくりと、その方がきっと確実に彼女の心を得られるだろう。
暫定恋人でも構わないから、その立場さえあれば伊東先生から彼女を守れる。そう思っていたのに、ある日彼女が妊娠したかもしれないと言った。
――避妊は、確実にした。
いくら夢中になっていたからといって、彼女の身体を思えば無責任な真似は早々できない。それくらいの理性は残っていた。
百パーセントとは言えない。だが、失敗した時はある程度、その時に気が付くものだ。だとしたら、妊娠ではなく彼女の体調が崩れている可能性もある。
――体調を見て、一度受診させた方がいい。
それに加えて、俺は思いついてしまった。
受診するまでははっきりとはわからない。
今なら、この関係をもっと確実なものにできるのではないかと、思いついてしまった。