エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
幸せになる方法
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「後藤さん、有給取るなんて珍しいね」

 課長に有給のお願いをしてデスクに戻ると、稲盛さんに声をかけられた。

「すみません。稲盛さんも体調が悪かったら言ってくださいね」
「大丈夫大丈夫。今のとこなんとかなってるし」

 稲盛さんは、つわりに苦しみつつもとりあえず毎日出勤できている。このまま体調に問題がなければ八カ月までは働いて、九カ月から産休育休に入るという。

「あんまり無理はしないでくださいね」
「ありがとう。それより、週の真ん中に一日だけ有給って、なにかあるの?」

 尋ねられて、私も正直に言うことにした。結婚したらどっちみち、報告することになるのだ。

「ちょっと、実家に」
「え、わざわざ有給使って?」
「お店をやってるので、定休日が水曜にしかなくて。……その、一応、彼氏を挨拶に。なので、両親の都合に合わせるのが筋かなと……」

 私がそう言うと、稲盛さんは目を見開いて、それからにやける口元を抑えながらコロコロと椅子を転がして近寄ってきた。

「それって、もしかして……結婚?」

 こそっと耳元で囁かれて、赤くなりながら頷いた。

「まだ先にはなりますけど、その予定で」
「おめでとう! えっ、じゃあ、こないだ言ってたのはやっぱりそうじゃないの?」

 言いながら稲盛さんの視線が私の下腹を見る。

「違いますって、それはほんとに」
「そう? 私に遠慮しないでよ」
「はい。稲盛さんも。それと、来週水曜にお休みいただけたので、それまでに前倒しで仕事片付けていきますね」

 ぐっと拳を握って見せると、私はパソコン画面に集中した。

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