エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
≪連絡できなくてごめん。今何してる?≫
やっとあった連絡が、このタイミングでそれにしたって素っ気ない。
仕事の為とはいえドタキャンした相手に、もうちょっと優しいメールを送ってくれてもいいんじゃないだろうか?
少し不満に思いながらも、久々の連絡だからこそ喧嘩もしたくなかった。
それに今は、サチと一緒だ。
《久しぶり。身体大丈夫? 今、サチとご飯食べた後》
簡単に彼の身体を心配するひとことと、今の状況を伝える内容を打って送信する。するとすぐに返信があった。
《残念。今から会えないかなと思ったのに》
「えっ」
思わず声を上げてしまい、サチが問いかけるような視線を寄越す。私は「なんでもない」と首を振ってみせ、急いで返事のメッセージを打った。
《ごめんね。タイミング合わないね。少し遅くなるけど帰ったら電話していい?》
サチと少し遊んでからなら、まだ彼が寝てしまうまでには間に合うかもしれない。やっと連絡が取れたから、声くらい聞きたいし何より彼と話したかった。
何を、というわけでもなく会話がしたい。
彼とのコミュニケーションに、飢えている。
そんなことを思いながら、急いで送信したもののさっきはすぐに付いた既読マークが付かない。
「伊東先生、なにって?」
「あ、大丈夫。こないだはドタキャンでごめんねって」
今から会えないかって誘われたと知ったら、サチが遠慮する。心配して出てきてくれた彼女にそれは申し訳なくて、言わなかった。
スマホをバッグに戻して彼女と一緒に再び歩き始める。
「なにそれ。何日経ってると思ってんの」
「あはは」
「あははじゃないわよ。ほんと、呑気だから心配んなるわ。次のデートには思いっきり良いもの食わせてもらいなさいよ」
直樹さんとのやり取りの間に、サチが検索して目当てのスポーツ施設を見つけてくれていた。彼女のスマホで場所を確認しながらふたりで歩いていく。
結局、その日はメッセージに既読が付くことはなく、サチと遊んで別れた後に電話をしてみたけれど、彼と話すこともできなかった。