エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
明らかに以前の彼と違っているのに『忙しいから』と理由付けして、自分を納得させようとしていた。彼の心が離れているのではないかと、そう思うことが怖かった。
もしかして、他に好きな女の人でも出来たのだろうか。だから私と距離を置こうとしているのかもしれない。
疑うみたいでそんな自分が嫌だけれど、自分に嘘をつくのは長続きしない。不安に思っている時点で、疑っているようなものなのだ。
――もし、このまま似たような状態が続いたら、一度、気持ちを吐き出してみよう。
どうして会えないのか、そんなにも連絡ができないものなのか。
もしかして、他に好きな人ができたのか。それなら別れて欲しいと彼から言ってこないのはなぜなのか。
本当にただ忙しいだけなら、私はただ鬱陶しい彼女みたいになりそうで、出来たら避けたい内容だ。だけど、ずっとこのままなのは私も辛い。
会えないことには話も出来ないけれど、メールで話を切り出したらさすがに彼も会おうとしてくれるはずだ。
そうしたら、私が疑心暗鬼になっているだけだと笑い飛ばしてくれるかもしれない。
そんな希望的観測が頭に浮かんで、私はやっぱり彼に戻ってきてほしいのだと気付かされて苦しくなった。
――今日会えなかったら、ちゃんと聞こう。
そう心が区切りをつけ始めた日。
「あ。金星」
駅の出入り口から病院に続く道の先へ視線を向ける。直樹さんに会いたいとメールをしたら、またこの周辺で待つことになった。
あの病院は敷地が広大で、周囲に建物がないので空が広く見えた。日が沈んだばかりの空に、強く光る星を見つけたのはやっぱり直樹さんを待っている間のことだ。
あれが建物の影で見えなくなったら、大体十九時くらい。
星に詳しくない私が、そんなことまで知るくらいにここで待ちぼうけを食っているのだと気が付いて、突然目頭が熱くなって涙が滲みそうになる。
泣きだしそうなのを、金星を睨みながら唇を噛みしめて耐えたというのに、呆れたような声がして気が緩んだ。
「また居た」
星から視線を下げると、”また”高野先生が立っていた。