エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

 高野先生とこんなに長い間ふたりで話したことは、もちろんこれが初めてだ。だけど以外にも会話が弾んだ。

「で、医療事務?」
「……別に、同じ病院で働きたいからとかじゃないですよ。でも病院関係の求人は安定してるっていう話だし、私が取るなら医療事務かなって」

 先日サチと会った時の話をしていて、同じように就職の話をしてしまった。それだけ、私が今の仕事に不安を感じているからだけれど。
 資格を取りたい。色々調べた結果、働きながら勉強して資格取得がしやすくて馴染みのある事務職でもある医療事務は、私にとって魅力的だった。

「いいんじゃないか。求人の需要はどれくらいなのかは俺にもわからないけど、なんでもやってみる価値はある」
「うん、私もそう思って……あ、ごめんなさい」

 お酒が入って話も弾んで、つい敬語が抜けてしまった。口を押えて謝ったけれど、彼は肩を竦める。

「別に気にしない。楽に話せばいいって。それ、伊東先生はなんて言ってた?」
「……まだ、相談出来てなくて」

 最初がサチで、その次が高野先生ということになったが、本当は直樹さんに一番に相談すべきなのはわかっている。
 だけど……今、この状況では相談しづらくもある。

「じゃあ、資格取ってから言ってもいいかもしれないな」
「そう、かな」
「だって、取れなかったらとか思わない?」
「えっ! そんなに難しいのかな?」
「さあ、どうだろう」

 医療事務といっても何種類かあるのだが、取り寄せた資料では一カ月でカリキュラムを終了して認定試験を受けられるみたいだった。
 まあでも、これも私の頭の出来具合にかかっているということなのだけれど。やってみないとわからないのだから、悩んだところで仕方ない。

「じゃあ合格したら話そうかな」
「先に知ってる俺はちょっと優越感だな」

 高野先生が、直樹さんより先に知って一体なんの優越感があるんだろう。意味が分からず首を傾げて彼を見ていた。
 その背後に、店の出入り口があり、よく見知った人物が入ってくるのが見えた。驚いて目を見開く。
 高野先生も、私の目が後ろを見ているのだと気が付いて、振り向いた。

「直樹さん?」

 呆然とした声だったと、我ながら思う。店内のざわめきの中に掻き消えるくらいの小さな声で、聞いたのはきっと高野先生くらいだ。

 直樹さんの横に、私より少し年上くらいだろうか。大人っぽい雰囲気の女性がいて、直樹さんの腕に絡みついていた。

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