エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
同僚かも。先輩か後輩か看護師……私は知らない人だけれど、友人かもしれない。いろんな説を考えて、どれも違うとふたりの纏う雰囲気が訴えていた。
店員に案内されて、ふたりはパーティションで区切られた半個室が並ぶ店の奥へ向かう。その時、直樹さんの顔が偶々私の方を見て、驚いたように目を見開く。
私は、固まってしまって声も出なかった。だけど、あの女性と何もないなら直樹さんから私に声をかけに来てくれるはず。
その期待は、バツが悪そうにあっさりと逸らされた視線で裏切られた。
「……え、なんで」
姿が見えなくなって、私はどこを見たらいいかわからなくなった。視線を下げて、テーブルの上を見る。
頭の中が、真っ白になった。視界の端に自分のスマホを見つけ、直樹さんからメールか何か来ていないか、確かめようと触れた手が震えていた。
それでもどうにかメッセージアプリを開く。既読すらまだ付いていない。
……未読スルー? 既読付けたら返事しないといけなくなるから?
「後藤さん」
低い声に名前を呼ばれて、のろのろと顔を上げる。目の前に、高野先生がいることをすっかり失念していた。
「……高野先生」
彼の顔を見て、この人は知っていたのだと思った。だって少しも驚いた顔をしていないのだ。
「あの人、誰ですか」
高野先生が知っているなら、きっと病院関係者だ。心臓の鼓動が、息苦しいくらいに早鐘を打っている。聞くのが怖いのに、聞かずにはいられなかった。
「この春、別の病院から転職してきた看護師」
この春。ということは、直樹さんとはまだ知り合って間もないということか。
その推測が当たっていたとして、別に私の方が長い付き合いだとかで優越に浸れるわけではない。だけど、次の言葉で打ちのめされた。
「幼馴染らしい。小学校以来会ってなくて、偶然の再会だって話」
ぎゅっと胸の奥の方を、握りつぶされたような気がした。