エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
元から彼は、呼べば飛んで迎えにくる私を喜んでいる節があった。だから、飲み会が終わるまで待っててと言われても特に何も思わなかったけれど、そのままドタキャンにされた時はさっきの彼女と会っていたということだ。
何も知らずに、そわそわしながら待っていた自分の姿が、思い出される。途端、抑えきれない感情が、込み上げてきた。
「お……怒ります」
声が震えるくらいの怒りと一緒に、けれど涙も込み上げてきて爪が食い込むくらいにぎゅっと手を握りしめる。
「怒ってます、でも」
今ここで、怒って泣きわめいたら、何か変わるだろうか。ただ私が見捨てられて、惨めに言い負けすることしか思い浮かばない。
言葉を続けようとすれば唇が震え、慌てて噛みしめた。そうしたら何も話せなくなって、ただ震えて俯く。わざと爪を立て握り締める手に握力を込めたけれど、手の痛みだけでは涙が止まりそうにない。
テーブルの上に乗せた自分の拳を見つめて泣くのを堪えていると、その拳が一回り大きな手に包まれた。
「出よう」
涙腺が決壊してしまう前に、そう言ってもらえるのはありがたかった。何より、ここで泣いて万一直樹さんに見られたらと思うと、早くこの場所から消えたくて私は言われるままにバッグを手に立ち上がった。
高野先生が会計をしてくれている間、私はぼんやりと店の外を見ていた。
あとで、半分払わなくちゃ。合計いくらだったんだろう。お財布に現金いくら入れてたっけ。
数字を一生懸命頭の中に浮かべていないと、油断したら泣けてくる。気持ちを静めようと深呼吸を数度繰り返した時、背後からかけられた声に固まった。
「お前ら付き合うの?」
ぱっと振り向くと、直樹さんが私を見て笑っていた。彼ひとりだ。彼女は恐らく席に残し、何か適当に言いつくろって出て来たのだろう。
「え……」
どういう意味?
自分が今、何を言われたのかわからなかった。周囲を見渡しても、彼が話しかけているのは私しかいない。私と、今会計をしている高野先生に向けてだ。