エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「付き合うって、そんなわけ……」

 どうしてそんなことを言うの。
 まるで、私と付き合ってた事実なんて無いみたいな言い方に、反論する上手い言葉が見つからない。
 あの人と付き合うから、俺のことは忘れろと言いたいのか。私の存在を彼女に知られたくないのかもしれない。

 だとしたら、今高野先生と一緒にいた私は彼にとってとても都合がよいということになる。

「あ、それかもしかして前から?」
「違います! 高野先生に失礼なこと言わないで!」

 思わず声を荒げてしまったため店内がざわついた。はっとして慌てて口を噤む。待ちぼうけている私を心配して、彼は声をかけてくれただけだ。恐らくは、直樹さんの浮気を知って、放っておけなかったんだろう。

 ――浮気、じゃないのかも。
 今の直樹さんの態度からして、切り捨てられるのは私の方なのだから。

「高野先生は、違います。それに、私は二股かけたりしないっ」

 公衆の面前で、これ以上揉めたくはないけれど、どうしても黙ってはいられなかった。当てこすったようなセリフにしかならなかったのが、それは十分彼を刺激したらしい。

 直樹さんの眉が、ぴくりと小さく上がる。彼が機嫌を悪くした時の癖だ。笑っているのに目が冷ややかで、彼がなにを考えているのか全然わからなかった。

 その上、はっと小馬鹿にしたように笑う。

「どうだか。高野は前から」
「伊東先生」

 直樹さんの言葉を遮るように高野先生の落ち着いた低い声が響く。

「こんなところで口論して、大丈夫ですか。彼女に聞かれますよ」


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