エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
高野先生が財布をジャケットの内側に仕舞いながら、私の方へ近寄ってくる。それから、急に私の肩を抱き寄せた。
「勘違いされたら彼女に申し訳ないから説明しますが、後藤さんには俺が一方的に迫ってます。先生にはもう関係ないことですが」
ぎゅっと肩を掴む彼の手が、とても力強い。高野先生を見上げれば、彼は真っ直ぐに直樹さんを睨みつけていた。
――高野先生?
その横顔を見て、もう堪えていた涙が止まらなくなった。唇を噛みしめて、彼の横顔だけを必死に見つめる。
彼が直樹さんに向けてはなった言葉は、私のプライドを守ろうとしてくれたのだろう。それでも嬉しかった。
ほんの数分前まで信じていた男の人は私を守ってはくれない。今一時だけ、この人に甘えたかった。直樹さんの前でこれ以上惨めな自分を晒したくなかったから。
「構わないですよね。彼女は俺がもらっても」
その言葉を最後に、彼は私の肩を抱いたままくるりと方向転換する。
「先生……」
「悪い。フリでもいいから、今は絆されといて」
互いにしか聞こえない、小声の会話を交わして私は高野先生の肩に頭を預けた。『悪い』なんて、高野先生が言うことじゃない。私が言わなければいけない言葉だ。
「……すみません」
申し訳なさに零れたひと言は、カウベルの音でかき消された。