エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「……後藤さん」
「悔しい、悲しい、わかんない……」
「そうだな」
「今日は、研修医の親睦会じゃなかったの?」

 彼女と会うなら、私を待たせる必要なんてなかったじゃないか。直樹さんが一体何を考えているのかわからない。

「いや、それもあった。多分、その後だと思う」
「じゃあ、なんで」

 彼女が好きなら、私に早く別れ話をすればよかったのに。それもしないで、なんでこんな中途半端なことを彼はしたの。

 問いかけた先は高野先生で、彼はぎゅっと眉根を寄せて何も言わなかった。高野先生からしたら、そんなことを聞かれてもわからないだろう。

 泣く私を連れてはどこにも行けず、彼はじっとその場で佇んでいた。私は目が溶けてしまうかと思うくらいに泣いた。
 どれくらい経っただろうか。おそらく十分かそれくらいだと思うけれど、不意に彼が私の手を離し、頭を抱き寄せた。その直後、男の人の囃し立てるような声を聞く。

「おーい、痴話喧嘩か」
「女泣かせんなよぉ」

 悪い人たちではなさそうで、そのまま通り過ぎていく。私を抱き寄せてくれたのは、泣き顔を隠してくれたのだと気が付いた。

「……あ、あの」

 硬くたくましい胸板が私の額に触れて、体温が伝わってくる。

「すみません、私、泣き過ぎちゃって……長い時間、付き合ってくれてありがとうございます」

 今、私にこの体温は毒だ。いつまでもすがりついて泣いてしまいそうで、これ以上一緒にいるのはダメだと思った。ただでさえ駅で会ってからずっと、彼は私を気遣って傍にいてくれている。

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