エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
これ以上の迷惑はかけられないと、身体を離して一歩下がった。
「もう大丈夫なので、帰ります」
開き直って顔を上げ、どうにか笑う。高野先生の目は、まるで痛ましいものを見るようでその視線も私には辛かった。
「そんな顔で、帰せるわけないだろ」
鏡を見なくてもわかるくらいに、上の瞼が重い。多分、酷い顔をしているのだろう。さすがに私もこれで電車に乗る勇気はないし、何よりもう、疲れてしまった。
「タクシーにします。……すみません、タクシー乗り場かどこかまで」
きょろっと周囲を見渡したが、私の知らない道まで来ていた。ずっと徒歩なので、駅からそれほど離れてはいないはずだが、店からは前も見ずに彼に引っ張られるまま歩いていたからまったく方向がわからない。
彼は、まだ納得していないようだったけれどため息をひとつ吐いた。
「……こっち」
そう言って、また私の手を引いて歩き出す。てっきり私は、タクシー乗り場まで案内してくれているのだと思っていたけれど、違った。
「そんな状態で、ひとりになんてできない」
「でも」
「多分、誰でもそう言うよ」
ぎゅっと握りしめてくる手は、振りほどくことを諦めてしまうくらいに力強くて温かだった。