エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
ちょっと年が離れているせいか、最初はとても甘やかしてもらえた。医大の友人にも彼女として紹介してくれていたし、病院勤務になってからは忙しくて会う機会も減ったけれど、時間をちゃんと作ってくれた。
院内である歓送迎会や飲み会がある時は、早めに切り上げるためにわざと私を呼んで迎えに来させたり、私という存在を周囲にちゃんと認知してくれたのだ。おかげで看護師をしている共通の友人も出来て、よくふたりで遊びに出かけたりする。彼の人間関係の中に私も入れてもらっているというのは、とても安心出来た。
でも、この頃はほんとに忙しそうだ。メールも心なしか減った気がする。年度替わりはどこも忙しいものだから仕方ないのだけど。
今日のデートの約束は、実に一カ月ぶりだった。
駅で稲盛さんと別れて、電車で病院の近くまで来て小さなカフェに入った。病院近くの居酒屋で歓迎会をしている、ということだったからこうすれば早めに会えると思ったのだ。
多分、飲み足りないって言ってバーに行きたがる。軽食くらいしかないだろうから、しっかり食べておこうかな。
カフェで食事をしながら、そわそわと時間が過ぎるのを待つ。
てっきり、今夜も早めに切り上げて連絡をくれると思っていた。
「まだかなー……」
長居しすぎて、カフェを出て、もう一度どこかに入ろうか迷いつつ駅の方へ向かう。
「遅くなるなら、返信くらいくれてもいいのに」
駅の近くで待ってます、とメールはしておいたのだが、既読が付いただけだ。改札近くは、私以外にも誰かを待っている様子の人が柱や壁を背に立っている。ちょっと距離を取って、私も通りが見えるあたりでしばらく立って待つことにした。
ざわざわと過ぎる人並みをぼーっと見つめて、ほんの少しの肌寒さに身を竦める。春から初夏に向かう頃だが、夜はまだ風が吹くとひんやりとした。ピンクベージュの春物コートの襟を寄せてきゅっと掴んだ時、道の向こうに知った顔を見た。
「あ」
嬉しくなって、つい顔が綻ぶ。直樹さんではないけれど、同じ病院のお医者さんで、彼の後輩だ。といっても、私よりは年上なのだけど。
彼の方も私を見て、すぐにわかったらしい。まっすぐにこちらに向かってくる。
「こんばんは、高野先生」
彼も直樹さんと同じ外科だから、きっと一緒の飲み会だったのだろうと察する。だとしたら、直樹さんももうすぐ連絡をくれるだろうか。