エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
 高野先生と直樹さんは、大学も同じだ。だから共通の交友関係が多くて、連れられて行った集まりで何度も会っている。
 付き合いの長さで言えば、直樹さんとほぼ同じくらいだ。ただ、親しく話したことはほとんどない。何せ、あまりしゃべらない人なのだ。表情もあまり変わらない。ただ直樹さんや他の人と話す時はもう少し明るい。彼からすれば、病院関係の中で私はやっぱり部外者の中に入るからなのかもしれない。事実その通りなので、仕方のないことだけれど。

 だから、軽く挨拶だけして通り過ぎていくのだろうと思っていたのに、予想は外れた。私の近くで立ち止まり、話しかけられたのだ。

「後藤さん、伊東先生待ち?」
「はい。もうお開きになりましたか?」

 しかも、少し砕けた口調だったので、私の方が妙に緊張してしまう。

「いや、俺は、少し早めに出て来た」
「あ、そうなんですか」

 じゃあ、もうしばらくかかるのかな?
 それとも、高野先生が出てきたのに便乗して、直樹さんも早めに抜けてくるかも?

 そんな期待に、ちょっと口元が緩んだ。けれど、高野先生はやっぱり表情はいつものように固い。ただ、会話はそこで止まってしまったのに、なぜか立ち去らない。ただ腕時計を見て時間を確認し、軽く眉間に皺を寄せた。

「あの……えっと……じゃあ、もうすぐお開きの雰囲気でしたか? さすがにちょっと、待ちくたびれてきてしまって」

 なんとなく居心地の悪さを感じて、無理矢理会話を繋げた感じだ。
 一体どうしたんだろう。高野先生が、やはりいつもと違う気がする。
 少しの沈黙のあとで、やっと返事があった。

「伊東先生は、来られないかもしれない」

 
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