エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「知ってたのは、俺だけかな、多分。永井は元々、伊東先生の後藤さんへの扱いに腹立ててた感じ。自分の都合に合わせて呼んでたのは、結構前からだろ」
「そうですね……だから都合のいい女になっちゃったってことでしょうか」

 直樹さんの隣にいた女の人が頭に浮かぶ。私と正反対の、大人の女性だった。直樹さんからすれば、私みたいなのは子供っぽかったのかもしれない。
 考えたら、また目頭が熱くなる。鼻の奥がツンとする。気付かれないよう、できるだけ静かに鼻を啜った。 

「別に、都合がいいとかそういうんじゃない」
「え?」

 彼は、数秒考えた後、缶ビールを揺らしながら言った。

「後藤さんは、ただ好きな男のために一生懸命だっただけだろ。会いたくて、会えたら嬉しいって顔全開で、ただ素直だっただけ。それを都合よく扱った男が悪い」

 ……そうだろうか。

 どうしても“私がもっと大人だったら”とか、自分の至らなさを探してしまう。だけど、そんなことはしなくていい、と彼は言う。

「不誠実で別れ話もまともに出来ない男に合わせても意味ないだろ」

 すっぱりと言い放ってくれて、気持ちが少し楽になる。
 自分に悪いところがひとつもなかったとは言わない。だけど、悪くないと断言してくれる人が傍にいて、今はそれがありがたかった。

「だから、あとはヤケ酒してすっきりするだけ」

 彼が私に向かって缶を差し出す。乾杯、という意味だとわかって、私の缶をそれにぶつけた。

< 32 / 185 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop