エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「大丈夫です。食べがてら待ってたので」
「は? ここで?」
「え? いえまさか。さっきまではカフェにいたので」

 まさか、こんなところで何を食べるって言うんだろう。
 なんとなく周囲を見渡して、なんと別の柱を背に立っていた女子高生が売店で買ったのかメロンパンにかじりついているところだった。せめて、どこかベンチでも見つけて座って食べればいいのに。

 女子高生から視線を戻すと、彼も同じ方向を見ていてちょうど私に視線を戻したところだった。

「さすがに大人なので。食べる時くらいはお店に入ります」

 誤解されてはかなわない。真剣に頷いてはっきりと言うと、思いがけず高野先生が口元を緩めた。はっきりとした笑顔ではなく苦笑のようなものだったけれど、高野先生が私と話していて笑ってくれたのは初めてだったかもしれない。少なくとも、記憶にない。

 なぜだか嬉しくて、私もつい笑ってしまった。

「仕方ないし、帰ります。すみません、足を止めさせてしまって」

 こんなところで何時間も待って、どれだけ会いたかったんだと思われるとちょっと恥ずかしい。それを誤魔化すようにして頭を下げると、彼に背を向けた。

 ちょっとくらい会いたかったな。
 直樹さんのメールを思い出して、無意識にため息を吐く。慌てて送ったような内容だったから、きっと彼も寂しく思ってくれているのだと自分に言い聞かせる。

 直後、またしても珍しいセリフを聞いて足を止めた。

「……せっかく、待ってたんだ。良かったら、飲みに行くか」

 思いきり目を見開いて、驚いた顔を隠すことなく振り向いてしまった。すると、彼は眉を顰めて仏頂面になる。

「そこまで驚くことか? 知り合いなんだから飲みに誘うくらいいいだろう」
「えっ。あ、そうですね、すみません、なんか……」

 本当に、これまで素っ気ない態度しかされたことがなかったのだから、驚いて当然だと思う。きっと、無駄足になった私に気を使ってくれたに違いない。

「でも、帰ります。気遣ってくれてありがとうございました」

 いくらなんでも、彼氏が来なかったからといって別の男性と食事に行くのはいけない気がした。


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