エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「あ、あの?」
「暗くてよく見えないけど、若干貧血があるな」

 親指で目の下を軽く押さえて、何をしているのかと思ったら下瞼の中を見ていたらしい。それから、手のひらや指で耳の下あたりを軽く抑える。

 あ、これって診察だ、と少しして気が付いた。ただの診察……とわかっていても、食欲がないと言っただけでこんな風に心配してもらえると、まるで、自分がとても甘やかされている感覚になる。

「……高野先生は、私のことが嫌いなのかなって思ってました」

 両頬を彼に包まれたまま、まっすぐに見上げてそう言うと、彼はとても驚いた顔をした。

「なんで?」
「だって、同じ集まりの場所にいても他の人とはよく話してるのに、私とは全然、目も合わないことが多かったから」

 なんとなく、避けられているのかなと思っていた。確か直樹さんに連れられて行った医大生の仲間の飲み会の席に高野先生がいた。
 何度かそういう集まりに同行して、彼とも顔見知りになったのにいつの頃からかあまり目も会わなくなった。

「嫌い、とまではいかなくても、苦手な人認定されてたのかなって、思って」

 そして、今もまた。私の顔を掴んだままではあるけれど、目だけが不自然に他所へ向けられる。それから「ごめん」と小さな声で彼が謝った。

< 66 / 185 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop