エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
「わざと、近寄らないようにしてた」
「わざと?」
それってやっぱり、私のことが苦手だったということか。地味に落ち込みそうになっていると、彼がはあっと大きなため息を吐く。
直後、逸らしていた目を戻し、私の目を見て言った。
「伊東先生を一生懸命、嬉しそうに追いかけてる君を好きになったから、近寄らないようにしてた」
高野先生の目は、覚悟を決めたようにもう恥ずかしがることも逸らされることもない。
「えっ……え、いつ」
「そうだな、後藤さんの言う、目が合わなくなった頃から?」
「結構前ですよっ?」
驚いて、思わず声のトーンが上がる。
「……最初は、一途な良い子だなと思う程度だったんだ。本当に真っすぐ、伊東先生のことしか見てなくて、呼ばれたら嬉しそうに駆け寄っていくとこが子犬みたいで」
――子犬。子犬って。
「あ、だから私のこと忠犬扱い……」
「いや、あれはちょっと嫌味だった。伊東先生しか目に入ってないのが、なんか腹立って」
「嫌味」
高野先生に、嫌味を言われていた。だけど、嫌われていたわけではなくて、寧ろ逆だったようだ。
実感が湧かなくて、呆然としながら聞いていた。だけど、段々と頬が熱くなってくる。しかも頬には依然彼の手があって、これではさすがに熱が伝わってしまうのではと思った。
思えば思うほど、顔は火照っていくのだけれど。
そのせいなのかどうなのかはわからない。高野先生が、目を細めそれからぐっと顔を寄せた。額が付くか付かないかくらいの距離だ。