エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
「……つまり、俺はずっと見てた。君が伊東先生をどれだけ想っていたかも知っている。だから、どんなに思い出に浸ろうが引きずろうが、俺は傍にいる」
その言葉に、嘘はないと感じ取れた。同時に、心の中にあった靄が淡く薄れていくような感覚になる。
ざ、と風の音がした。ひらひらと薄桃のちいさな花びらが散る。
「思い出を全部、上書きしてやる。だから、俺を好きにならないか」
それは、少し変わった告白の言葉だと思った。だけど、今の私にはぴたりと当て嵌まる。
「そんな、曖昧な気持ちでもいいんですか」
「いい。上書きが全部終わる頃には好きにさせてみせるよ」
あまりにも強気で自信過剰、だけど彼は確信しているみたいだった。その頃には、私が高野先生を好きになっていると、まるで私まで信じさせる強さだった。
ひら、ひら。
また風にのって、花びらが舞い降りてくる。ちいさな一枚が、彼の前髪に止まる。
「今日、ひとつ上書きされました」
初めて、男の人とお花見デートをした。もう何年も前の記憶を、高野先生の強い眼差しと言葉が塗り替えていく。
「私、先生を好きになりたい」
滲んだ涙を見せたくなくて、先生の首に両手を回して抱き着いた。
思い出全部、上書きされたら、きっとこの切なさはなくなってくれるのだろう。