エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
思わぬ知らせ
*

 公園を出てから、高野先生は私を家まで送ると言ってついて来てくれた。公園からはわずか五分くらいの距離だ。
 玄関のドアを開けた状態で、彼と話をしている。部屋、丸見えだけれど散らかしてなくて良かった。少しだけでも寄っていってもらえればいいのだけれど、彼も明日が早いので今日はもう帰ると言った。
 うちに入ってもらうのは、また後日の上書きとなった。

「ごめんなさい、こんなとこまで来てもらって」

 それが何より申し訳ない。だけど、彼は私とは違う考え方のようだ。

「会いたかったから来た。後藤さんもよく、伊東先生に会いたくて出向いてただろう」
「それはそうだけど……私は大抵定時で終われるから、身動きとりやすいし」
「たとえそうでも、普通は逆だからな。女を何時間も平気で外で待たせる方が嫌なんだよ、普通は。むかつくからまずはそこを一番に上書きしてやる」

 そう言った高野先生は、本当に怒った表情をしている。まあ、自分たちがあまり一般的でなかったことは、私も自覚があった。

 彼の言い分もわかる。だけど、ちょっとでもたくさん一緒にいたい、という気持ちの表れでもあったのだ。

「じゃあ……私から高野先生に早く会いたいからって、前みたいに駅で待ったらダメですか?」

 比べるわけではないけれど、直樹さんはそうすると機嫌がよかったのだ。高野先生は、どうなのだろう。
 答えを待っていると、彼は少し考えたあと。

「……正直言うと、そんな風に言われるとやっぱり嬉しいな」

 やっぱりそういうものなんじゃないか。

「だからって外で待ちぼうけするくらいなら、これ持ってて」
「えっ?」

 これ、と何かを渡そうとしてきて、私は咄嗟に両手で受ける。ころん、と手のひらに転がったのは、キーホルダーのついてない鍵だった。

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