エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

 いくらフラれた直後だからって何をやってるの、と私が怒られるのはいいが、高野先生へサチの怒りが向くことになってもいけない。
 私の言いたいことを、先生もわかったようだ。

「……俺の気持ち含め、あの日あったことは全部話した。夜のこと、以外は」

 夜のこと、という部分は、少し声を潜めて、内緒話をするように彼が腰を屈める。

「後藤さんが、友達に知られるのは嫌かもしれないと思って。言っていいなら俺から話す」
「だ、だめ!」

 慌てて止めた。別に知られたくないわけではない。いや、説明するのは怖いし恥ずかしいけれど。
 高野先生から話したら、サチの性格を考えると一回殴らせろとか言いそうだ。先生は先生で、自分が悪いように説明しそうな気もする。

「……私から全部、話します。話したら先生にも言うね」
「わかった。……じゃあ」

 明日はふたりとも仕事だ。彼には早く帰って休んでもらわないとと思うのに、その時間が迫ると不意に寂しくなった。

 その僅かな名残惜しさを、彼に悟られたのだろうか。彼の指が頬に触れる。顎のラインを辿って、そっと上向かされた。

「おやすみのキスは、してもいい?」

 見上げた先に、彼の綺麗に整った顔がある。切れ長の目は、黒い瞳と合わせていつも、どこかキツそうでひんやりとして見えた。

 だけど不思議と、今はその黒が優しい色に感じられる。しっとりと温かく包んでくれる、夜の色だった。
 その目に見とれていると、彼が困ったように眉尻を下げる。

「いやか」
「え、あ……いやじゃない、です」

 はっとして、赤くなる。見とれていたとはとても言えない。嬉しそうに目が細くなって、直後静かに唇が重なった。
 


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