エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
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 その後、私の食欲は翌日から徐々に戻って来ていた。

 きっと、自分の思い込みでかかっていた心の負担が、楽になったのだと思う。思い出を無理に消そうと思ったり厭わなくてもいいのだと、高野先生が教えてくれた。必ず上書きすると言ってくれたからだろう。

 土曜日は、朝はヨーグルトだけだったし昼も夜も量は少ないけれど、一応三食ちゃんと摂ることができた。少しずつ、空腹の時の感覚が戻ってきている。

 サチには考えた末、結局あったことそのまま話すと決め、日曜の夕方に病院近くのカフェで待ち合わせた。
 中途半端な時間なので私はアイスティだけ注文したが、彼女はこれから夜勤だとかでがっつりオムライス定食を食べている。

「ごめんね、もっとゆっくり話せる日にしといたらよかったね」
「いいのよ、私が早く知りたいって言ったんだし。でないと気になって仕事に集中できないし。これでもほんとに心配してたんだからね?」

 サチは、女性と一緒にいた直樹さんを見てその後冷たい言葉でフラれた私を放っておけなくて、自宅でヤケ酒に付き合ったと高野先生から聞いていたらしい。
 その時に、怪しいとは思ったらしく、それで私の番号を教えるのをしばらく躊躇していたようだ。

 たくさんの心配をかけてしまった。私は一度背筋を伸ばして、深々と頭を下げた。

「本当にご心配をおかけしました」
「まったくだわ。それにしても高野先生も手が早すぎてびっくりだけどね」

 オムライスを全部食べ終えた彼女は呆れた表情を浮かべると、セットのアイスコーヒーにガムシロップとミルクを入れて、ストローでくるくるとかき混ぜる。

 私は慌てて言った。

「高野先生は、悪くないから」
「悪くはなくても手が早いのは本当じゃない」
「うっ……」

 確かに、その日の事情だけを切り取れば、その通りなのだが。


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