エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
「で、その高野先生は今日は?」
「うん、昨日の夜遅くに緊急オペがあったらしくて。今日はお休みだけど家で寝てるみたい」
「ふうん。高野先生、今、部長に気に入られてるからねー。ことあるごとに呼ばれるのかも」
「そうなんだ……」
「まあ、それで実は伊東先生とちょっと険悪なのよね」
「えっ?」
びっくりして、アイスティをストローでかき混ぜていた手が止まった。
「うち、結構有名な血管外科の先生がいて、その人が外科の本部長やってるんだけどね。前は伊東先生がお気に入りだったのに、もうここ一年くらいかな? 高野先生ばっかり助手に呼ぶようになっちゃって、伊東先生が一方的に高野先生を敵視してんのよ。高野先生は全然、誰に対しても態度変えないけどね」
「知らなかった……」
直樹さんは、全然そう言った病院関係の話をしなかった。医大の後輩だし、それなりに良い関係なのだと思っていたのだが……だけど、仕事のことが絡むと先輩後輩だからこそややこしいのかもしれない。
私とのことで、余計に直樹さんから目をつけられなければいいのだけれど。
私の中で、直樹さんは面倒見の良いお兄さんタイプの人だと思っていたから、とても意外なことだった。
「ま、仕事に本気であればこそ、競争心とか劣等感とか生まれて当然だしね。その点、高野先生はクール……だと思ってたんだけどなあ。恋の方で拗らせてたかあ……」
またサチのにやにや笑いが復活して、私はまたアイスティを飲んで誤魔化した。