エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

 彼もすぐに私に気が付いて、スマホの通話を切った。

「歩いてきといてよかった」
「出てきてくれてたんですね」
「ああ、食欲、あれからどうなったか心配で。実は、中華粥の専門店が近くにあって、それなら食えるんじゃないかと思ったから」
「……中華粥!」

 思わず、身を乗り出して聞き返した。

「そんな専門店があるんですか」

 元々、お鍋のあとの雑炊とかが大好きだ。小さい土鍋でひとり鍋をしたあとは、必ず雑炊もするつもりでお腹をあけてある。鍋料理じゃなくても、お粥を作ったり鶏雑炊をしたりするときもある。

 サチに言えば『風邪でもないのに……お粥?』と不思議そうにされたけれど。数日前までは、お粥もあまり食べる気になれなかったけれど、食欲が戻りつつある今ならきっと食べられる。

 私が、よほど目を輝かせていたのだろう。高野先生はちょっと驚いた顔をして、それからくっと喉を鳴らして笑う。

「そんなに興味あるもんか? 中華粥って」
「あります。私、おかゆとか雑炊とか大好きで……以前、中華屋さんで食べたお粥が、今まで食べたことのない味のお粥ですごく感動したことがあって」
「じゃあ、決まり。行こう」

 すっと手を取られて、あたり前のように繋いで歩く。まだ少し慣れないが、その分心臓がとくとくと高鳴った。

「あ、でも、先生は? お粥じゃ頼りなくないですか?」
「点心とかもメニューにあったから大丈夫だろ。この駅周辺はさ、実は結構隠れた名店があって……」

 店まで歩く途中、彼がいろんなお店を教えてくれた。私も結構うろついている方だったので知っているつもりだったけれど、それ以上にたくさんある。
 食べられるようになったら行こうと言って、彼がリストアップして順位付けしていた。私を連れて行きたいお店がたくさんあるらしい。

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