エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける


 彼が案内してくれたお店の中華粥は、本当に美味しかった。大きな鉢にたっぷり入っていて、残念ながら食べきることはできなかったけど先生が半分引き受けてくれた。

「小籠包も美味かった……あんまり行かなかったけど中華もたまにはいいな」
「本当に美味しかったです……たっぷり食べました」
 帰り道、いっぱいになったお腹を抱えてゆっくりと散歩のペースで歩く。この後のことを考えてしまう。
 不意に、繋いでいる手を高野先生が持ち上げた。

「先生?」
「ん……そろそろ帰さないとな」

 どうやら、その手首にある腕時計を見ていたらしい。中華粥の店でたくさん喋りながら食べていたから、結構時間は過ぎていただろう。

「今、何時ですか?」
「二十時過ぎてる」

 微妙な時間だ。遅いわけでもなく、だけどどこかに寄るには、遅くなる可能性がある時間で、ここで帰宅するには少し寂しく感じた。
 高野先生の目が、ちらりと彼を見上げる私を見る。彼の目も、私と同じことを感じているような気がした。

 駅が近づき、どちらからともなく口数が少なくなる。あともう少しで、という時だ。

「こっち」

 くん、と繋いだ手を引っ張られる。少し薄暗い路地で、ひとりならば通るのを躊躇うような場所だ。入ってすぐ、隅に身を寄せれば大通りからの人の目は避けられる。

 そこで、高野先生と向きあうようにして立ち止まった。彼の両手が私の背中に回り、腰のあたりで手を組み軽く抱き寄せられた。

「さすがに、駅前で堂々とキスはしづらいな」

 そう言って、ふわりと私の唇にキスを落とす。

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