エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
「先生……」
「それ、別の呼び方考えてって言ったのに。まだ決まらない?」
「う……」
確かに、先生呼びはどうもイケナイ香りがして、いろいろと私も考えた。
「高野さん?」
「どうせなら下の名前で」
そう。絶対、これを言われると思ったから、今日は躊躇したのだ。もちろん、下の名前も知っている。こないだ、サチが送ってくれた連絡先のデータにちゃんとフルネームで書かれてあった。
「伊東先生は“直樹さん”で、俺が名字なのは納得がいかない」
それを言われて、初めて「はっ」と気が付いた。確かに、それはもう変だ。直樹さんのことは“伊東先生”もしくは“伊東さん”に脳内も切り替えていかなくてはいけない。
「……これからは“伊東先生”って呼びます」
「いや、そっちはどうでもいいからこっちな」
真剣に言ったのに、伊東先生のことはどうでもいいらしい。ちゅっと音を立てて口づけられて、まるで催促をされているような気持ちになる。
「呼んでほしい。雅」
気持ち、ではなくてまさしく催促に間違いなかった。唇を擦り合わせて擽られ、私は観念する。
「……大哉さん」
そうしたら、彼は嬉しそうに破顔した。
「俺は、雅って呼んでいい?」
「もう呼んでるじゃないですか」
気が抜けて、ふっと苦笑いをする。彼の会話はどうも、人を誘導するのが上手い。それからくすくす笑いながら、電車の時間を二度遅らせて路地裏のキスは続けられた。