エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
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 彼は私に鍵を渡してくれたものの、互いの家に出入りするのはまだ敢えて避けているように思える。
 私の推測だけれど、最初が衝動的な一夜だったから、二度目はちゃんと私の意思を確認してから、と決めているのではないだろうか。だから、そういうシチュエーションになる可能性を回避しているのだと思う。

 忙しい人なのはわかっているから無理はしないでほしいのに、会えない日でも必ず一度は電話をくれる。

 彼に言わせれば、私の仕事の時間はそう大きな変化はないので、逆に私に合わせて電話をするのは難しくないという。

 それくらいの時間が取れないわけがないという。
 つくづく、伊東先生に私は適当に見られていたのだと、今更ながらによくわかった。

 電話をして、デートを繰り返して、ちいさな出来事ひとつひとつを大哉さんとのことに上書きをして、きっと私はいつか、そう遠くないうちに心から彼を好きと言える。ゆっくりと近づいていけばいいと、そう思っていた。
 あることに、気が付くまでは。

 
 大哉さんが一日予定の空く日曜日、ちゃんとしたデートをしようという話になり日程と待ち合わせ時間をスマホのスケジュールに登録しようとした。

「……あれ?」

 ふと、気が付く。毎月必ずつくハートのマークが、まだどこにもない。

 ……どくん。
 大きく心臓が音を立てた。

 ハートマークは、私が必ずつけている生理開始日だ。きっちり二十八日周期の私は、時々一日二日の誤差はあるもののほとんど狂ったことがない。
 最近は、ずっと金曜日に来ていた。


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