エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける

「……うそ、うそ。ちょっと待って」

 さっと血の気が引いていく。スケジュールの画面を横にスライドさせて、先月の日を確認する。確かに金曜日にハートマークが付いていて、今の月に画面を戻すと何もない。

 当然だ、ここしばらく生理は来ていないし……兆候もない。

 だいたい、生理が始まる三日前くらいから腰や腹部が重くなって、痛みも伴う。酷いときは、生理前から痛み止めを飲むくらいだ。

 だから、ある意味わかりやすい。身体がしんどくなったら生理の合図になっていた。だけどそれが、今もまったくない。

 ……予定日を過ぎて、もうすぐ一週間にもなるというのに。

「……どうしよう」

 頭の中が、真っ白になる。まずどうすればいい? 何を考えたらいい?

 心臓の鼓動が早くて、それが邪魔で上手くものが考えられない。スケジュールアプリを何度もスライドさせて、先月と今月を行ったり来たりするが、何度見ても同じだ。
 あるべき場所にハートマークがない。

 ――生理が、遅れる、可能性……って。

 他に思い浮かばない。

 下腹に手を当てる。
 今、思いつく可能性はひとつだった。伊東先生は、ありえない。最後にデートしたのは先月の生理の前だったし、その時も会っただけで“そういうこと”はしなかった。

 だから、可能性は、ひとつ、いやひとりなのだ。

「……嘘でしょう?」

 たった一度の、衝動的な夜。
 一晩中慰めてくれた、あの夜しか、心当たりはなかった。





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